2009年04月11日

3つの原理

neandeltal

 毎週土曜日は、各種おすすめ本を紹介する書評の日。
 
 きょうご紹介するのは、ローレンス・トーブ著『3つの原理』です。
 
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 紀元前から、2150年の近未来までの壮大な人類史を
 「性」「年齢」「社会階層」という3つの原理によって
 解き明かそうという、なんとも壮大な試みの本です。
 
 この3つ、それぞれの原理に意味があるのですが、
 全部を紹介するのはえらく長くなってしまうので、中でも最も重要である
 「社会階層」の面から、人類史を眺めてゆきましょう。
 
 「社会階層」という原理によって、人類史はどう解体されるのか?
 
 
 
 著者が「社会階層」で人類史をぶった切るときに、その元としているのは、
 インドの「カースト制度」です。「社会階層」とは即ち「カースト」のこと。
 
 
 ご存知かと思いますが、インドのカースト制度では
 人間を大きく4つのカーストに分けています。
 
 ・バラモン(宗教・精神)
 ・クシャトリヤ(戦士)
 ・ヴァイシャ(商人)
 ・シュードラ(労働者)
 
 江戸時代の士農工商のようなものですね。
 他にも細かいカーストはありますが、基本的にこの4分類です。
 
 
 そして、インド哲学では、歴史をもカースト(社会階層)によって
 定義づけるという考えがあるそうです。
 
 つまり、バラモンの勢力が最も優勢な「宗教・精神の時代」や、
 クシャトリヤの勢力が最も優勢な「戦士の時代」などがあるということ。
 
 人間だけでなく、歴史も「カースト」によって分類するという
 思想があるんです。
 
 
 
 例えば、ほとんどの国が帝国主義であり、戦争による領土拡大こそが
 国の目的だった時代は「戦士の時代」です。
 
 武力も経済力が重要になり、場合によっては経済によって
 相手の国を支配するなんていうことも出来るのが「商人の時代」ということ。
 
 フランス革命をはじめとした一連の「ブルジョワ革命」は、
 「戦士の時代」から「商人の時代」へと転換する象徴的な出来事です。
 
 ※ウィキ兄貴による「市民革命」
 → http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B8%82%E6%B0%91%E9%9D%A9%E5%91%BD

 
 
 著者は、人類の歴史は次のように変化していったと分析しています。
 
 宗教・精神の時代1(紀元前300万年前〜紀元前2000年)
  ↓
 戦士の時代(紀元前2000年〜17世紀初頭)
  ↓
 商人の時代(1650年頃〜1975年頃)
  ↓
 労働者の時代(1917年頃〜2030年頃)
  ↓
 宗教・精神の時代(1979年頃〜)
 
 
 
 この論でいえば、現代は「労働者の時代」ど真ん中です。
 
 といっても、世界すべての国々が「労働者の時代」にいるわけではなく、
 いまだに「戦士の時代」を生きる国も「商人の時代」を生きる国もあります。
 
 例えば、アフリカの国々なんかは、まだ政権が不安定なところが多いですから、
 武力革命によって政権を奪取することができます。
 
 ソマリアなんか、現在は無政府状態ですしね。
 それらの国々は「労働者の時代」ではなく「戦士の時代」にあるということ。

 また、アマゾンの原住民なんかだと「宗教・精神の時代1」を
 生きているわけです。
 
 ただ、世界の中心にいる国々(EU、アメリカ、日本、中国など)が
 「労働者の時代」にいるので、世界全体を「労働者の時代」と
 表現しているのです。
 
 
 
 それぞれの時代で、最も影響力を持つ国というのがあります。
 
 「商人の時代」だったら、それはアメリカでした。
 世界の富の半分以上がアメリカにあった、という時代もありました。
 
 アメリカ合衆国大統領は、世界の王。
 
 第二次世界大戦後は「商人の時代」のピークをむかえ、
 アメリカがその頂点に立っていました。
 
 
 著者によれば、「労働者の時代」に最も力を持つのは、
 日本・韓国・中国といった「儒教圏」の国々だそうです。
 
 21世紀前半は、これらの国々が世界のトップに立つであろうと、
 著者は予想しています。
 
 
 そして、人類は最終的には「宗教・精神の時代2」を迎えるといいます。
 
 「宗教・精神の時代2」の社会においては、人間の目指すところは、
 「悟りを開くこと」となるそうです。
 
 自分の内面に「神」を見るような、精神性・宗教性に基づいて
 文化が築かれる時代がやってくるといいます。
 
 
 
 ま、なぜそういう時代の変遷になるのかという理屈も面白いのですが、
 ここで重要だと思うのは、自分の生きている時代が、4つのカーストの
 うちのひとつにしか過ぎないという視点だと思うのです。
 
 「戦士の時代」に生きる人は、「戦士の時代」の価値観が当然であり、
 それを疑うことはありません。他の価値観は無いんです。
 
 我々の生きる「労働者の時代」も同じです。
 その時代に生きる人にとっては、価値観はひとつだけなんです。
 
 
 
 この『3つの原理』を知ることにより、自分が生きる時代を
 より相対的に、冷静に眺めることが出来るんじゃないかと思います。
 
 今の日本は「労働者の時代」ですから、労働者の価値観が最も正しく見えます。

 仕事こそが人生だし、働かざるもの食うべからずだし、
 仕事を通して自己実現することこそが人間の生き方として正しく思われていま
 す。
 
 でも、それは「労働者の時代」という、ひとつの価値観でしかない。
 
 他の時代の人から見れば「労働者の時代」の価値観は、
 ナンだかよく分からないものだったりします。
 
 
 
 我々のような「労働者の時代」に生きる者からすれば、
 武力・権力こそが第一という「戦士の時代」なんて、なかなか理解できません。
 
 それよりも「金が第一」という「商人の時代」のほうが理解できるし、
 いや、金よりも仕事こそが大切だという「労働者の時代」の思想も、
 よく理解できます。
 
 でも、それはあくまでひとつの価値観でしかないんですよね。
 
 今の「労働者の時代」の価値観に、自分がうまいこと適合して、
 楽しく生きているのならば、それでいいと思うんですが。
 
 どこか時代に違和感を感じる人にとっては「絶対の価値観なんてない」と
 知ることは、大切なことだと思うんです。
 

 
 本書『3つの原理』が示しているのは、とても壮大な歴史観です。
 
 近年なかなか見られない、大局的な観点から歴史を見ています。 
 「専門化」が評価されるこの時代において、かなり珍しい本です。
 
 
 大学の研究者も、より専門化していく時代ですから、
 歴史を語るとなれば「人類の歴史」ではなく「音楽史」のように
 一分野に限定されたものになることが多いです。
 
 いや「音楽史」でもまだ広いです。
 「音楽史」よりも「ヨーロッパの音楽史」のほうが評価されるでしょう。
 
 そして、「ヨーロッパの音楽史」よりも
 「中世ヨーロッパの音楽史」よりも
 「中世ドイツ東部地方の音楽史」よりも
 「16世紀後半のドイツ東部地方の音楽史」のほうが、
 より高尚な感じがするでしょう。専門化こそが評価される秘訣です。
 
 
 専門化に意味がないとは言いませんが、専門化していくと同時に、
 大局的に歴史を見る視点がどんどんと忘れ去られていっているような
 気がするんです。
 
 良くも悪くも、マルクス主義のような壮大な歴史観は、
 今の時代には受け入れられないのでしょう。
 
 
 そんな中、ここまで大局的な観点から歴史を見る本は、珍しい。
 あらゆることを包括する論は、爽快感を覚えます。
 
 とにもかくにも、僕がこの1年で最も面白く読めた本ですね。
 



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posted by 加藤のどか at 11:45| 高知 ☀| 書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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