2009年03月28日

幸せって、なんだっけ

幸せ.jpg

 
 子供の頃、不思議だったことがあります。
 
 昔の生活は、今よりずっと大変だったらしい。
 川で洗濯をし、ほうきで掃除をし、自動車も飛行機もなかったらしい。
 昔に比べて今は、とても便利になったらしい。
 
 洗濯も掃除も、比べられないほど、時間がかからなくなったそうだ。昔ならば、
 人の手で作らなければならなかった物も、今は機械が作ってくれる。今は昔と
 比べて、同じことが、少ない時間で出来るようになった。
 
 なのに、何でみんな忙しく働くのだろうか。昔よりも便利な世の中になったのに、
 何で暇が無いんだろうか。それが不思議でした。
 
 
 
 大学生の頃、理解できなかったことがあります。
 
 哲学のルールとして、不可逆性というものがあるらしい。
 
 人間は、一度知った知識を手放すことはないし、知識は積み重ねられてどんど
 ん進歩していくものらしい。
 
 西洋哲学というのは、そういうものなんだそうだ。なんで、そう言い切れるん
 だろうか。引き返すことは出来ないのだろうか。忘れることは出来ないのだろ
 うか。それが理解できませんでした。
 
 
 
 数年前、アメリカから日本へと向かう飛行機の中で、隣の席の人と話しました。
 
 僕の隣の席に座っていたのは、身の丈2メートルはあろうかという、30歳前
 後のポリネシア人。ランニングシャツ・短パン・ビーチサンダルに手ぶらとい
 う、極端にラフなスタイルで国際線に乗り込んできました。
 
 お互いに片言の英語で話をしたところ、彼は成田経由で、グアムの近くにある
 故郷の島へと帰るとのこと。アメリカで働いていたけれど、嫌になったから、
 故郷の島でのんびり暮らすのだと言いました。
 
 おそらく、その飛行機に乗り合わせた人の中で、彼の持ち物が最も少なかった
 はず。手ぶらにチケット1枚で、国際線に乗っているんですから。でも、その
 飛行機に乗り合わせた人の中で、彼が一番楽しそうにしていました。そして、
 彼が一番幸せな人生を歩むんじゃないかと感じました。
 
 
 
 これら3つの、取れそうで取れない耳垢のように、大脳の片隅にくすぶってい
 た感情を、80%ほど解消してくれた本があります。
 

 毎週土曜日は、各種おすすめ本を紹介する書評の日。
 
 きょうご紹介するのは、辻信一著『幸せって、なんだっけ』です。

続きを読む前に

 
 幸せの形は、人それぞれで違います。
 
 飲み屋で騒ぐのが幸せな人もいれば、家でゲームをしているのが幸せだという
 人もいます。100人の人間がいれば、100通りの幸せの形が、そこにあり
 ます。幸せは人それぞれ違うのだから、比べることも、数値化することは出来
 ません。
 
 幸せよりも数値化しやすく、使い勝手の良い指標があります。
 
 それは「豊かさ」。
 そして多くの場合、豊かさは、幸せと相関関係にあるとして語られています。
 
 年収300万円の人よりも、年収1000万円の人のほうが、豊かであり、幸
 せ。GDPの高い日本のほうが、名も分からぬ南の島の人よりも、豊かであり、
 幸せ。そのような、暗黙の前提があると思います。
 
 
 でも、実際はそんなことはないですよね。
 
 豊かさは、幸せにつながるわけではないし、むしろ、豊かさが幸せに逆行する
 こともある。「豊かさ」という経済的な指標が、「幸せ」とどのような関係に
 あるかを、本書『幸せって、なんだっけ』は、懇切丁寧に書き記してゆきます。
 
 
 GDP(経済規模)が幸せに関係しないというのは、次のような例を考えれば、
 すぐに分かると思います。
 
 経済とは「お金の流れ」の総量。そのお金が、幸せにつながるものであるかど
 うかは、関係ありません。お金を媒介とした取引の多さこそが、経済の規模、
 すなわち「豊かさ」になります。
 
 ですから、犯罪対策、ゴミ処理、癌の治療費、刑務所の費用、離婚調停費用、
 そのようなものも、すべてお金が動けば「豊かさ」に含まれるのです。これら
 の費用が多ければ、その分のGDPが生まれ、経済が発展し、社会が豊かになっ
 ているということになるのです。
 
 
 現在の社会の根本にあるのは「成長しなきゃいけない」という強迫観念ではな
 いでしょうか。経済とは、常に成長していくもの。経済成長こそが、幸せにつ
 ながっていく。そのためにいは、時間も空間もムダには出来ない。1分1秒を
 管理し、ムダなスペースをなくし、すべてを効率化する。その先に、豊かさと
 幸せがあると思われています。
 
 象徴的なのが、「マイナス成長」という言葉。あらためて見てみると、すごい
 言葉です。マイナスでも「成長」。常に成長するという前提が、そこにはあり
 ます。だから「経済成長率」というんです。「経済変動率」とは言わない。
 
 「マイナス変動」でいいのに、「マイナス成長」という。常に、我々の経済は
 成長しなくてはいけないんです。戦前は1円あれば大金持ちだったそうですが、
 今では子供のお小遣いにもなりません。なぜなら、経済が成長したからです。
 1円が100万円になった。経済は100万倍に「成長」しました。
 
 
 幸せとは、経済的に豊かであること。
 
 おそらく、ほとんどの国々は、この前提によって動いています。しかし、そう
 いう動きに違和感を持つ人々も、ぼつぼつ現れはじめているようです。
 
 アメリカでは、そういう層をCC(カルチャー・クリエイティブ)と呼んでい
 るそうです。「新しい文化を創る人々」という意味ですね。ある調査によれば、
 アメリカの成人の約3分の1、5000万人ほどが、CC的な思考を持ってい
 るとのこと。「豊かさ」が「幸せ」に直結するとも思わない、でも禁欲的な生
 活を送っているというわけでもない人々です。
 
 
 これまでのアメリカ人の価値観は、大きく2種類に分けて語られていたそうで
 す。それは「近代主義者(モダニスト)」と「伝統主義者(トラディショナリ
 スト)」。
 
 近代主義は、豊かさこそ幸せという、現代の社会の中心をなす思想。
 
 伝統主義とは、男らしく自信に満ちた家父長を中心とした家族に典型的な、田
 舎の勤勉な、敬虔な人々たちの思想。
 
 日本に置き換えれば、近代主義とは、六本木ヒルズとかで働くビジネスマン、
 伝統主義とは、田舎のガンコ親父といったところでしょうか。
 
 
 そのどちらにも属さない、CCという層がかなりの多さ(3分の1)になって
 いるそうです。CCに見られるのは、次のような特徴です。
 
 ・テレビよりも、本や雑誌やラジオのほうが好き。
 
 ・芸術や文化活動に熱心で、観るだけではなく、やる側に回ることも多い。
 
 ・プラスチック製品、最先端のファッション、使い捨てなどに興味が薄い。
 
 ・食に強い関心を持つ人が多い。
 
 ・新築の豪華な家よりも、古い家を自分好みに改造したい。
 
 ・住居を、巣や隠れ家的なものだと考えている。
 
 ・対症療法よりも、予防医学に関心がある。
 
 
 うーむ、かなり自分に当てはまってしまう。僕も、「モダニスト」か「トラ
 ディッショナリスト」か「CC」かと問われたら、間違いなくCCになってし
 まう人間です。
 
 
 現代社会の中心概念は「モダニスト」だし、田舎に行けばまだ「トラディッ
 ショナリスト」が大半です。そういう中、CCの価値観を持つ人は、どこにい
 ても微妙な違和感を感じてしまうことが多いのではないでしょうか。都会でも、
 また、伝統的な堅苦しい田舎でも、どこか疎外感を感じてしまう。どちらも、
 どこか違うと思う。
 
 上の「CCの特徴」に当てはまる人には、この『幸せって、なんだっけ』は、
 ぜひ読んでもらいたい一書です。




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posted by 加藤のどか at 11:45| 高知 ☁| 書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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