2009年03月21日

ハチはなぜ大量死したのか

ミツバチ

 
 毎週土曜日は、各種おすすめ本を紹介する書評の日。
 
 きょうご紹介するのは、ローワン・ジェイコブセン著『ハチはなぜ大量死した
 のか』です。


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 数年前から、ミツバチが大量死する事件が、世界中で相次いでいます。
 
 ある日突然、ミツバチが巣箱から跡形もなく消え去ってしまう。死体があるわ
 けでもない、外敵にやられたわけでもない。花の蜜を求めて飛び去ったまま、
 巣箱に帰ってこない。どこへともなく、消え去ってしまうのです。
 
 今までに、北半球だけで実に300億匹ものミツバチが、忽然と姿を消してし
 まったのです。一体、その原因は何なのか? 今日ご紹介する『ハチはなぜ大
 量死したのか』は、ミツバチ大量失踪の原因を探るノンフィクションです。
 
 
 ミツバチ失踪の原因は、いろいろと語られています。ミツハチの天敵である害
 虫にやられた、新種のウイルスが原因だ、いや携帯電話の電波がミツバチの感
 覚器官を狂わせたのだ、等々。数々の原因が取りざたされています。
 
 いきなり結論を言ってしまえば、ミツバチ失踪の直接の原因は、分かっていま
 せん。ただ確かなことは、失踪したミツバチは、いつ死んでもおかしくないよ
 うなほど、体がボロボロになっていたということ。そういう状態のミツバチに
 対し、何が最後の一押しをしたのかは分かっていませんが、何らかの一押しが
 あれば、いつ全滅してもおかしくないような異常な状態だったのです。
 
 直接の原因の「最後の一押し」よりも、なぜ最後の一押しをされればすぐに死
 んでしまうほどの「異常な状態」でミツバチが飼育されているのか、そのほう
 が重要な問題だと思います。
 
 
 まず、現代のミツバチの生活というものは「お花畑に飛んでいって、蜂蜜を集
 める仕事」のような、小学生が思い描くような、のんびりしたものではありま
 せん。実は、現代のミツバチの最も重要な仕事というのは「蜂蜜を集めること」
 ではないのです。
 
 
 現代のミツバチに求められている仕事とは、「受粉作業」です。
 
 
 我々の食卓に上る野菜や果実、そのほとんどに、ミツバチは関わっています。
 トマト、ナス、キュウリ、メロン、リンゴ、そのほとんどは、受粉作業をミツ
 バチに頼っています。リンゴ畑にミツバチの巣箱を置き、ミツバチを花から花
 へと飛び回らせて、受粉作業を行っているんです。
 
 
 受粉作業の象徴的なものとして、本書で取り上げられているのが、カリフォル
 ニアのアーモンド園。カリフォルニアでは、実に世界の80%以上のアーモン
 ドを生産しています。
 
 コンビニで売っているおつまみの「小魚アーモンド」や、ロッテの「アーモン
 ドチョコレート」なんかも、カリフォルニアで作られています。
 
 
 アーモンドというのは、違う種類の木同士ではないと、実を結ばないという性
 質を持っています。つまり、実をつけるためのA品種とは別に、受粉のためだ
 けのB品種を、ごちゃまぜにして植えないといけないんですね。カリフォルニ
 アのアーモンド園では、A品種とB品種のアーモンドが、一列ずつ、交互にず
 らっと並んでいます。
 
 ここにミツバチを放せばいいかというと、話はそう単純でもないです。ミツバ
 チの気持ちになって考えてみると、アーモンドの花に飛んで行って、そこで蜜
 をゲットした。そしたら次にどこに行くかといえば、隣の花に飛んでいきます
 よね。一番近いところに飛んでいくのが普通です。
 
 ところが、隣の花は、同じ木の花。つまり、A品種ならばA品種というように、
 同じ品種の木の花。これでは受粉しないんです。
 
 アーモンドを受粉させるためには、A品種の花にとまった後に、B品種の花に
 同じミツバチをとまらせないといけない。このためには、どうすればいいか。
 答えは単純です。ミツバチをいっぱい、アーモンド園に放つのです。
 
 
 すべてのミツバチに対し、満足に蜜が行き渡らないほどの花しかなければ、ど
 うするか。隣の花にも、蜜がない。その隣の花にも、蜜がない。違うミツバチ
 が、すでにとってしまったからです。ミツバチは、いくつもの花をわたりある
 き、隣の違う品種の木にも行きます。これで、受粉は成功です。つまり、ミツ
 バチが常に飢えかけている状態でないと、アーモンドの受粉は行われないので
 す。
 
 でも、このままではミツバチも、蜜が足りずに弱ってしまいます。そこでミツ
 バチに与えられるのが、コーンシロップ。トウモロコシの糖からつくったシロッ
 プですね。これをミツバチに与えて、なんとか活動を続けさせます。
 
 
 ところが、このコーンシロップ、おなかはいっぱいになるものの、花の蜜と同
 じような栄養分を持っているわけではありません。カロリーだけあって、栄養
 素が無いような、ファストフードのようなものなんです。でも、他に食べるも
 のがありませんから、ミツバチはファストフードをお腹に詰め込んで、またアー
 モンドの花へと飛んでいくんです。
 
 ミツバチを脅かす要因は、まだまだあります。農薬も、そのひとつ。農薬の役
 割というのは、虫は殺すけれど、人間には無害だというもの。実際、現在使わ
 れている農薬のほとんどは、人間にはほとんど影響を与えていないと思います。
 
 しかし、ミツバチは別。だって、ミツバチは昆虫なんですから。害虫のカメム
 シは殺すけれど、ミツバチには無害という農薬は、ほとんどありません。農薬
 は、虫と人の区別はできますが、カメムシとミツバチの区別は出来ないのです。
 ミツバチに農薬が直接散布されることはありませんが、花粉や蜜を通して、間
 接的に摂取してゆきます。そして、だんだんと体が弱っていきます。
 
 
 このようなミツバチの生活を、著者は、人間の生活に例えて、次のように表現
 しています。
 
 
 自然のミツバチの生活というのは、次のようなものです。
 
 一晩ぐっすりと眠って、気持ちよく目を覚ましたら、バランスのとれた健康的
 な食事を取ります。(本来、ミツバチはいくつもの花の蜜をもってくるので、
 自然と、バランスのとれた食生活になっているのですアーモンドの蜜と、アカ
 シアの蜜とでは、成分が違うのです)
 
 毒薬(農薬)の危険や、伝染病(ウイルス)の危険を感じることもなく、適度
 に労働をし、一日をリラックスして過ごします。体調が良いので、仕事の生産
 性は最大限に上がっています。
 
 
 ところが、現代に生きるミツバチのほとんどは、このような生活を送ることは
 出来ません。受粉作業のために、強制的に広大な果樹園へと借り出されてゆき
 ます。
 
 大陸を横断するような長旅のあと(カリフォルニアのアーモンド園の受粉作業
 のため、世界中からミツバチは空輸されてきます)、コカコーラを朝食代わり
 に流し込み、仕事先へと向かいます。ゴミゴミした都会で、空気は悪く、吐き
 気をもよおしてきます。長年のストレスがたまり、体調がすぐれません。しか
 し、仕事はいくらでも待っています。すぐに、次の仕事先へとも向かわなけれ
 ばなりません。
 
 
 大量失踪が起きる前から、すでに、ミツバチの体はガタガタであり、専門家に
 言わせれば「まだミツバチが生きているのが、不思議なくらいだ」というもの
 でした。大量死が起こったことが不思議なのではなく、起こらなかったことが、
 不思議なくらい、ミツバチは酷使され、ボロボロになっていたのです。
 
 
 もし、この世界からミツバチがいなくなったら、どうなるでしょうか。
 
 蜂蜜がなくなるだけ、なんていう単純なことではなりません。野菜も、果実も、
 ほとんどの農作物が実を結ばなくなります。既に、現代の農業は、風や天然の
 昆虫といった「自然まかせ」では、実を結ばないものになっています。
 
 カリフォルニアのアーモンド園は、見渡す限り、一面のアーモンドの木に覆わ
 れています。そこには、虫はいません。どこかから、受粉のために、ミツバチ
 を持ってこないといけないんです。そしてミツバチは、多くのライバルと競わ
 されながらも、蜜にはありつけず、かわりにコーンシロップを腹に詰め込み、
 また飛び立ってゆくのです。
 
 本書『ハチはなぜ大量死したのか』の原題は『Fruitless Fall(実りの無い秋)』。
 ミツバチがいないということは、ほとんどの実りが無くなってしまうというこ
 と。それくらい、ミツバチというのは現代農業に必須の「部品」として、農業
 経済の中に組み込まれているのです。ところが、ミツバチは機械ではありませ
 ん。生き物です。経済論理に従って働くことに、無理が出てきた。その結果の
 大量死だったのではないか、と思えてなりません。
 
 食や環境に興味のある方には、おすすめの本です。
 





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posted by 加藤のどか at 11:45| 高知 ☀| 書評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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